自閉の世界へ

 視覚支援を始めたのは“行動”の変化ですが、それと同時に“気持ち”の変化が大きくありました。それは、自閉症ではない私が“自閉症の世界”へ入っていくことでした。
 KATは小さい頃から、こちらが一生懸命教えようとした事には、時間がかかっても必ず応えてくれる子でした。だから、私は只ひたすら、KATをこちらの世界に連れてくることだけを考え、そのことに精一杯でした。
 よく『自閉症の文化』と言われるように、自閉症の人たちにはその人たちなりの世界があるようです。これは、個人的な私の捉え方ですが・・・例えば、自閉症の世界と非自閉症の世界に境界線があるとします。非自閉症の世界にいながら自閉症の世界の中から引っぱり出すことには、間違いなく限界があります。でも、自らが自閉症の世界を知り、中に入っていくことで、その境界線を一緒に越えることができる可能性もあるのではないでしょうか。
 子供のことはどれだけわかっていても、自閉症を理解していない為におちいる罠=自閉症の世界に入ろうとしない為にぶつかる壁・・・があるような気がします。そして、過去の私は、その罠に陥り、壁にぶつかり、イライラしてもがいていたのです。

 講演会に出かけたり、本を読んだりして勉強して、実際に自閉症の世界を体感することはできないけれど、イメージすることはできます(私は自閉症ではないので・・・(^o^))。何に困っていて、どんなことが不得意で、不安を感じる時や感覚の違い・・・すべてがKATと一緒ではないけれど、思い当たることや似たようなものをたくさん発見しています。そうやって、“自閉症の世界”を知っていくと、不思議と子供が自閉症であることの不安が少なくなっていくのを感じました。そしてまた、それが障碍である限り、本人の努力だけでは乗り越えられないこと、不可能と考えなくてはいけないこともあること・・・を実感しました。
 自閉症は目には見えない障碍です。だから理解されにくいし誤解されやすい・・・そして無理を押し付けられる。きっと、私もそうしていたんだと思います。ずっとずっと、KATに無理を言い続けていた。わからない伝え方をしているから、わかるはずないのに、「どうしてわからないの!?」と怒っていた。障碍や発達年齢の不足のためにできるはずのないことを、必死になって教えて、できないことにイライラしていた。

 そして、今の私・・・KATは自閉症者として育てます!それは、現実社会で生きることを諦めたのではなく、自閉症であることを明らかに認めた上で、できるだけ社会に適応できるように育てるということです。(追記:今となってはこれは完全な強がりです(^^;)

 『非自閉症の世界のことを教える時は、自閉症の世界のルールに従うこと』一番大切なことを忘れることなく、可能性が少しでもあることには、挑戦させていきます。本人のモチベーションがある限り、私は最大限の努力をします。目標は“社会人として楽しく暮らすこと”です!

2006/4/12